確かめた孤独


雪は好きだ。
真っ白で、冷たくて、総ての世界を輝く白銀で塗りつぶしてくれる。 だからそう云った。
「雪は好きだ」って。



[確かめた孤独]



雪は好きだ。
俺がそう呟くと、ギアッチョは意外そうな顔をした。
「オメー、あんな冷たくて面倒臭えモン好きなのかよ」
そう云って眉根と言わず顔全体をしかめて問い返してくる。
「確かに冷たい。だがそこが良いと思わないか?それに雪が降っている間は溶けないだろう?」
「そりゃぁ氷点下じゃねーと雪にならねぇからな。」
「そう、冷たいから良いんだ。冷えて固まって、降り積もって、真っ白なまま世界を埋め尽くすんだぜ。」
それでもギアッチョは寒いのは嫌な様だった。
「日が照りゃぁ溶けるし道路なんか気温が相当低くなきゃグチャグチャじゃねーか!低いなら低いで凍りやがる!運転する側としちゃぁ降ってりゃ前が見えねぇしスリップするし面倒な事ありゃしねぇッ。」
「ははっ、アンタのスタンドだって良く凍らせてるじゃないかよ、そういや、纏ったスタンドの中はぬくぬくって本当かい?」
「おう、快適な摂氏20度って所だ。調節もきいて快適極まりないぜ」
「つまり、ギアッチョは寒がりって事か」
「うるせぇそんなに寒いのが好きなら今すぐ凍らせるぞ」
ギアッチョが勢い良く片手をあげたので俺は笑ってなだめる事にする。
「まぁまぁ、何も凍りたい訳じゃないさ。ただ…」
言葉を区切り、外を見る。
熱過ぎるくらいの暖房で暖められた喫茶店の窓から覗く外側の世界は、白く冷たく静かに冷えていた。
「俺はこの景色が好きってだけだ。だから、冷えるのも悪くない。そう思うだけさ」
硝子越しの世界の中では白に埋もれながらも時々厚着の人々が通りすぎる。
転々と踏みしめられた跡が抉られて、その度に降りしきる白が埋め直そうとしている。
冬が総てを凍らせて、皆死んでしまったみたいにしんしんと雪だけが静かに降り積もるから。
真っ白な世界に独りだけの様に感じて、寂しさすら覚えるから。
総てを拒絶しようとしていた君を思い出すから。
「俺は、雪が好きだよ」
もう一度呟いた俺に、ギアッチョは曖昧な顔をしながら、冷めかけの珈琲を口に含んだ。
俺は一人、白に向けて笑った。

- end -

劣情管理人の京乃助様より御寄稿。